今年の夏も暑い。暑さにやられた漢が辿り着く先が、沢である。
宮城公博氏の著書「外道クライマー」によると「沢登りに異常なこだわりをもった偏屈な社会不適合者」を沢ヤと称するらしい。
彼らは年がら年中、沢に入っており、地図の空白部、未踏の地といった言葉を好む。
私は沢ヤではないので、年に数回、沢で涼を楽しむくらいである。
とある日、「これが赤岳だッッ!!!」というグループラインが鳴った。
グループと言っても3人だけの小さなものである。
グループ名に赤岳と入っているが、3人で登ったことはないし、登る予定もない。不思議なグループ名。
そんなグループに属するKさん(通称:ニキ)の提案で、2025年7月26-27日に小仙丈沢へ行くことになった。もう一人はTさん(通称:ゆまちゃん♂)である。
ラインでやり取りをする中で、私は食料担当となった。
ニキとゆまちゃんの熱い要望にて(火が出るくらい頭を地面に擦りつけ)、タイ料理限定である。
タイ料理を作るとなると、メニューに悩んだ。
沢では普段使っているような調理器具が使えないし、調理器具を増やすと荷物になる。
且つ、お腹が膨れて、美味しくないといけない。そして可能な限り、調理の手間も少なくしたい。
色々と思いつくが、グリーンカレーを選択した。メジャーなタイ料理だし、調理工程も単純、ボリュームもあるし、失敗が少ない。
近所のスーパーで食材を調達し、レシピだけ確認しておいた。
真夏に生肉(鶏肉)を常温で運ぶのはリスキーなので、冷凍して持っていくことにした。初日の活動時間は短いので、生モノを山に持っていけるのは大きい。
計画書に従い、沢登りの準備を進めるとザックはパンパンに膨れ上がった。
1泊2日の沢の容量ではない。
3人とも住んでいる場所がバラバラなので、適当な場所に集合し、戸台パーク駐車場(仙流荘)へと向かった。
駐車場に到着すると、荷物を分担。北沢峠行のバスチケットを購入し、バスに乗り込む。席は後部座席だったので、ザックを置くスペースがあり、膝に乗せて約1時間辛抱する必要が無かった。

北沢峠に到着すると、涼しさを感じた。
それもそのはず、気温は16℃前後であり、下界とは20℃近く差があるのだ。
沢というより、久しぶりの登山気分なので高揚していた。

ここからは暫く林道歩きとなる。というより今日の工程の半分以上が林道歩き。

小仙丈沢の出合いにて沢装備に着替えて入渓準備。
準備完了したタイミングでお姉さんとすれ違った。あられもない姿をみられていなかっただろうか。
夕刻に雨予報が出ており、雲行きが怪しい。

登る小滝は果敢に攻める。でも無理はしない。


難所は無く、あっという間に幕営適地に到着。これで1日目の遡行は終了。
到着と同タイミングにて雨が本格的に降り出してきた。
水に塗れた薪は火おこしに時間が掛かるので、できる限り乾いたものを集めようとしたが時すでに遅し。濡れた木しか残っていなかった。

次にタープで寝床づくり。丁度よい高さの木が無く、難航。
流木を石を集めて固定して高さを出し、”ロープの魔術師”の異名を持つニキのロープテクにより、無事にタープを張ることができた。
天井は低いが、快適な空間が完成した。

時刻は16:30。
ニキは朝早かったようで仮眠をとる。ゆまちゃんは瞑想して、暴れる性欲を落ち着かせていた。

私は暗くなると調理がしづらくなるので、日があるうちに食材を切ったりしていた。
食担はここからが本番なのだ。以降は出番がなくなる。
タイ米を水に浸して置き、芯まで吸水させる。(タイ米はジャポニカ米と比べて吸水性がよいので、やる必要はなかった)

次にトマトとキュウリで前菜づくり。
味付けは塩だけだが、早く振りすぎると水が抜けてしまうのでカットに留める。

パプリカと茄子、鶏胸肉をカット。
包丁がなく、刃の短いナイフしか持っていなかったので鶏肉が切りづらい。
しかも平坦な場所がないので、薄いまな板がガタつく。

一通り食材を切り終わったら、グリーンカレーの調理開始だ。
コッヘルに油を入れ、カレーペーストとニンニク、鶏肉を炒めていく。
後からこの写真をみたニキとゆまちゃん♂は「ウンコを食わせやがって!」とブリブリしていた。

茄子と唐辛子、パプリカを加えて、全体的に火が通ったら水を入れて柔らかくなるまで煮込む。

適当なタイミングでココナッツミルクを入れ、ホラパーも加えてひたすら煮込む。
ニキはポラパーという単語を覚えることができず、ホリパーやホッパーなど似たような単語ばかり発していた。SOUL'd OUTの歌詞や高山植物を覚えている教養人であろうものが不思議。


筍を入れ、ナンプラーで味を調整したら完成。


コッヘル容積が足りず、溢れた具材は塩コショウで炒めものにした。
タイ米もよい具合に炊けていた。


日が沈み、ムーディーな雰囲気になってきた。

各自ビールを持ち込んだが、見事に違うラベル。そしてニキは気付く。
「あれ、何かこの缶軽くない?」
持ってみると明らかに軽い。パッと見ただけでは開封はされていない。
ピンホールサイズの穴が開いており、そこからビールが漏れ出てしまったと思われる。それとも中身だけ神隠しにあったのか。それは神のみぞ知る。
ともかく乾杯。

焚き火は心の癒し。これをしに沢に来ているといっても過言でない。

バイエルン職人であるニキの夜は長い。火中へと落下させて煤付きバイエルンを誕生させていた。
水で洗い流して、再加熱するという工程を挟むことで水気のあるジューシーさを生み出していた。(塩気と肉々しさがあって美味であった)

空を見上げると星が綺麗であった。
「あれがデネブ、アルタイル、ベガ」と適当に言う。
明日も朝早いので就寝。
寝床は下流に向かって緩やかな傾斜がついているので少々寝づらかった。
起床。
起きると隣にいたゆまちゃん♂の姿がない。タープから離れた場所で、一人寂しくシュラフにくるまっていた。
そしてタープの天井が低いことに気付く。
就寝中に、タープの支柱となっていた流木が折れてしまい、天井が落ちたようだ。
ギリギリ顔面にタープが当たらなかった私とニキはすやすやと眠ることができたのだ。
やはりこういった場面で日頃の行いがでてしまうのだ。
朝食は昨日の余りを混ぜた鹹豆漿粥。

目覚めのコーヒーをきめ、沢装備に着替えたら出発。朝の着替えは毎度不快。
一つ目の大滝がみえてきた。
大滝一段目と二段目は右側から水線にて越える。枝沢にて抜ければ本流へ合流する。
特に難しい箇所は無かったが、水が冷たくて手がかじかむ。

二つ目の大滝。
左の滝から登った?記憶に残っていない。

結局、ロープはタープを張るときしか使わなかった。
ここから先はひたすら登山道に向けて詰めあがっていくのだが、体力不足ここに極まれり。太ももが爆発しそうで、足取りが重い。

ハイマツを使ってガシガシ登るが、しんどい。

小千丈カール。圧巻の景色だが、しんどくて楽しむ余裕がない。

休憩を挟みながら、マイペースに登る。何度ピークを越えても登山道が出てこないので、心が折られる。

ついに念願の登山道に出た。これだよ、待っていたのは。くそったれが。
荷物をデポして、仙丈ヶ岳の山頂を目指す。荷物がなく、勾配がないだけでこんなにも楽になるとは。

5分ほど滞在して、早々に下山を開始する。

完全に私の体力は売り切れてしまったので、無心で下山。
下りなのに唐突に上りが出てくると怒りが湧く。でも稜線歩きは気持ちがよい。

ついに下山。14:30発のバスに乗れそうだ。
下山してちょっとすると雨が降り始めたので、タイミングは完璧。
漢気溢れるゆまちゃん♂にコーラを奢ってもらう。疲れ切った身体に染み渡る。
私はペプシ派であることは黙っておいた。

仙流荘までの帰りのバスでは爆睡し、気付いたら到着していた。
下界に降りた後はさくらの湯に入り、身体を清めた。
ニキはUmai Colaというクラフトコーラをうまそうに飲んでいた。

そして少し早いが夕飯を食べに向かう。夕飯は伊那名物のソースカツ丼だ。
会社の先輩に教えてもらった”たけだ”をチョイス。有名店の1つで、脂身のあるカツが特徴。開店した15分に到着したが、既に満席。待つこと30分ほどでありつくことができた。

伊那のソースカツは福井のぺらぺらなソースカツと違って、肉厚だ。
肉は柔らかく、脂も臭みはない。値段は2,000円と高いのだが、人に勧められるお店である。個人的には脂身の少ない青い塔の方が好み。

中央道を走って、集合場所へと戻り解散。
やはり沢泊はいいものだ。でも登山ってこんなにキツい行為だったか。
クーラーの効いた部屋にいて、有酸素運動をしない生活ばかりしていると怠けた身体になってしまうようだ。
楽しかったが、体力の低下を感じる山行であった。
ジューガンマイクラップ