勁草書房より出版されている「タイあたりカルチャー・ショック 若き企業戦士の異文化体験」を読んでみました。
本書にはトヨタ自動車(株)に勤めている飯田光孝さんがタイの海外赴任で得られた経験や考えが綴られております。
今から約30年前の1992年の書籍ですので、タイがまさに発展を遂げようとしている時の内容になります。ですが景観や生活習慣に変化はあれど、国民性は大きくは変わらないはずです。
自分がタイでみた光景や人は、他の目にはどのように映るのだろうか。タイ旅行(2023/05/01~05/08)の内容と照らし合わせながら、旅行の思い出を振り返る意図で読んでみました。
読んでみて特に面白いと思ったのは、チュラロンコン大学の大学院生活や出家による僧侶生活について書かれている点です。
観光客ではすることのできない行動であり、それぞれに属して生活をしていないと分からない情報が多々盛り込まれており、タイ文化に深く入り込んでおりました。
私は時々、技術の発展は人を退化させてしまうと思うことがあります。一方で、技術が発展するということは人も進化していると捉えることができます。
では退化を感じる対象が何かを考えたとき、私は「人間の動物性」ではないかと思います。「綺麗な部屋でしか寝れない」「洋式トイレでないと用を足せない」というのは文明により生み出された退化なのです。震災があった時、動物であれば真っ先に逃げるべきなのに、動画撮影するというのは文明により動物性を損なったと言えます。
動物性のスマホやPCといった電子端末が普及していない時代を想像し、自分を飯田さんに置き換えて本書を読むと、自分事に感じてよりタイ世界に入り込むことができるのでお勧めです。
書籍の詳細は以下に示します。
本書で述べられていた内容をかいつまんで、日常生活、学生/会社生活、僧侶生活に大別して記載。
■日常生活
・バンコクの蚊はマラリヤを媒介しない、何故ならマラリヤを保有する蚊は川の水が綺麗でないと繁殖できないから。
・蚊は日中は部屋の暗いところに潜んでいるので、ベッドの下とかに殺虫剤を撒くとよい。
・タイ人は小銭を持っていないと嘘をつき、値下げ交渉をしてくる。
・割り勘という考えは基本なく、招待者や年輩者が払う。例外として、誕生日の人や臨時収入が入った人がいたらその人が払う。
・タイ人は腹を立てることがあっても、最初は心の中に留めている。怒りが積もり、爆発すると歯止めが効かなくなる。殺人事件や傷害事件がこれを物語っている。
・タイ人女性の目に映るタイ人男性は辛抱が足りず、将来への見通しがなく、酒飲みの怠け者で浮気性。逆にタイ人女性は経済的、精神的に自立しており、奥ゆかしさがない。
・暑いため、忍耐や組織的なプレーが要求されるチーム競技は好まれない。テニスやバドミントン、セパタクローが人気であるが、暑いので運動をしなくても新陳代謝がよく、運動自体の需要が低い。
・事故した相手に逃げられると二度と見つからないので、免許を取り上げて警察に預ける。相手が公共交通機関でも同じ対応が必要。その場で示談金を査定して支払いをしてもらう。
・殺人請負業が存在し、5000Bほどで依頼できる。また、拳銃所持も条件付きで認められているので、大量に出回っている。暴力団のように組織化されていないことで、誰でも簡単に悪になることができ、社会復帰もできる。
・タイの社会的階級の頂点は国王。人間として最大の功徳を持ち、各国立大の卒業証書を一人一人渡したり、寺院や官庁の各種儀式に参加するので親子のような交流ができる。
■学生/会社生活
・タマサート大学とチュラロンコン大学がタイの双璧。チュラロンコン大は公務員養成学校が起源なので、完了を多く輩出している。タマサート大はエコノミストやジャーナリストに強い。
・西洋コンプレックスがあり、人物評価では英語の会話力が重視される。その為、英語で会議をすると話が進みやすい。日本語ができても尊敬はされない。
・タイでは将来を会社に託す意味での帰属意識が低く、製造現場のエンジニアが育ちにくい。一方で、コンピュータなど最先端技術への興味は高く、生産性向上やコスト削減など継続的改善が得意。
■僧侶生活
・上座部仏教は227の戒律からなる。この戒律は煩悩を生む要因を摘み取るための行動規範。戒律を守ることで涅槃への道を探っている。
・一般人にこの戒律を守ることは不可能なので、托鉢僧に寄進して徳を分けてもらう。
・僧侶になる条件は20歳以上の健康な男子であること。いつで還俗可能であり、著者は約1.5ヶ月僧侶になった。
・得度式に使うパーリ語で書かれた経文を暗記する必要がある。暗記ができず、僧になれない人もいる。
・僧侶の世界は時間やノルマがなく、ゆったりとした時間が流れる。生み出すものがないので何もない虚しい世界。
ジューガンマイクラップ。